楽音会
リレーエッセイ

 日本の音、音楽を愛し振興を目指す皆様向けに各界の先生方より語っていただきます。

第2回、「古典で磨く詩心と洒落のセンス」 楽音会副理事長 久保田敏子

 
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 第2回、「古典で磨く詩心(うたごころ)と洒落のセンス」
                 楽音会副理事長 久保田敏子 :2008年10月1日発行
 
 世の中、適度なメリハリが大切ですから、今回のエッセイは少し砕けましょう。
 皆さん、古典の音曲は何となく堅苦しくって……とお思いじゃないですか。ところが!なんです。
 先ず、歌詞には洒落た掛け言葉がふんだんに使われています。オヤジギャグなど足元にも及ばないようなセンスの良いシャレ言葉がいっぱいあります。歌の内容も、四季折々の情趣を愛でた詩情溢れるものから、心の奥に秘めた熱い想いや遣る瀬無い想い、失恋の悲しみ、辛い生活の苦しみなどを品良く歌ったもの迄、幅広くあります。今の演歌のように直接的な表現で涙を誘うわけではありませんが、じっくりと聴けば聴くほど味わいが深まります。
 また、早くも17世紀の末頃に出版された一節切(ひとよぎり)尺八の素人向け入門書の題名が「紙鳶(いかのぼり)」というのも傑作です。紙鳶とは紙凧の事ですが、「(風が)吹くほど凧がよく揚がるように、尺八も吹けば吹くほど腕が上がる」のシャレです。一節切は、江戸時代前半頃まで庶民に親しまれていた小さい尺八ですが、「一夜きり」の儚い契りの意味も掛けて、「ひとよぎりの音(寝)も良けれ」などと使います。さらに、よく使われる掛け言葉に「葛の葉の裏」があります。葛の葉は、風が吹くと裏返って、普段見えない白い葉の裏が見えますので、「恨み」という語を引き出す時に使います。こうした例は山ほどあって面白いです。
 また、よく知っている曲を丸ごと、或いは手事の部分を全く別の曲と一緒に演奏して楽しむ「打合わせ」や、同じ拍数に作った段物や手事を同時に演奏する「段合わせ」等もあります。例えば、「六段」を、初段からと六段からと同時に弾いたり、別の段物と同時に弾いたりするのです。
 さらには「洒落弾き」といって替手を弾く時に自在に入れ手をして、丁々発止のやりとりを楽しんだり、「糸回し」といって三味線三人で、弾く糸の担当を決めておいて、各人が一本の糸だけを弾いて、三人で曲を繋いで遊んだりもします。一の糸は結構ヒマですから途中で担当を変えたりする高度なやり方もあります。この様に、昔の名人達は色々と遊びながら腕を磨いていました。
 作曲に当っても、古曲の一部をさり気なく引用して、通の聞き手をニヤリとさせるのも手の一つです。山田流の流祖・山田検校の作品にも、こうした引用やフレーズの使い回しが随所にあって面白いです。
 このように遊び心を見つけて楽しむのも、古典を聴く楽しみの一つですよ。
 
   

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